【コラム:労働法】兼業禁止規定について

 昨今の賃金水準の低下やIT技術の発展等に伴い、起業等の副業(兼業)が労働者の関心事になっているようです。また、相続等により、意図せず副業(兼業)を開始するケースもあります。
 法律で兼業が禁止されている公務員とは異なり、民間企業における従業員の副業(兼業)は、法律上禁止されてはおりません。
 もっとも、就業規則により、許可がない限り副業(兼業)してはならないとしている企業が多いと思われます。

 まず、このような兼業禁止規定に問題はないのでしょうか。
 
 兼業禁止規定自体は、事情の如何を問わず絶対的に兼業を禁止するようなものでなければ、その合理性が認められ、有効であると考えられており、裁判例でも、その有効性自体は認められています(小川建設事件・東京地判昭57年11月19日労民集33巻6号1028頁、橋元運輸事件・名古屋地判昭47年4月28日判時680号88頁、東京メディカルサービス事件・東京地判平3年4月8日労判590号45頁等)
 一方で、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生じぜしめない程度・態様の二重就職は禁止の違反とはいえないとする裁判例もあります(平仙事件・浦和地判昭40年12月16日労判15号6頁)。
 また、文献(菅野和夫「法律学講座双書労働法(第10版)」弘文堂・500頁)によれば、二重就職も基本的には使用者の労働契約上の権限の及び得ない労働者の私生活における行為であるため、許可制の規定を限定解釈することが正当であり、「労務提供に支障を来す程度の長時間の二重就職や、競業会社の取締役への就任、使用者が従業員に対し、特別加算金を支給しつつ残業を廃止し疲労回復・能率向上に努めていた期間中の同業会社における労働、病気による休業中の自営業経営などが、禁止に該当する二重就職と解されている。」とされています。

 それでは、例えば、相続により収益性のある不動産を取得した場合、兼業禁止規定に抵触するのでしょうか。

 不動産所得を得るに当たって、特段、労働を要せず、本来の業務に影響が無い場合には、そもそも兼業には該当しないとも考えられます。
 もっとも、労働性の有無・程度や本来業務への影響を個別具体的に判断することには困難を伴いますので、例えば、賃貸の規模が大規模であり、また、不動産による収入が多額となる場合には、当該不動産の維持、管理に関する一定の業務が想定されるため、不動産所得も、「副業」として兼業許可の対象になると考えることが相当であるように思われます。
 なお、不動産所得に関し、賃貸規模や収入の多寡に関する判断を行うに当たっては、国家公務員に関する兼業禁止規定が参考になると思われます。(「人事院規則14-8(営利企業の役員等との兼業)」及び「人事院規則14―8(営利企業の役員等との兼業)の運用について(昭和31年8月23日職職―599)(人事院事務総長発)」)

 それでは、不動産所得以外の副業(兼業)に関しては、兼業許可に関する具体的な判断基準をどのように考えるべきでしょうか。
前述のとおり、裁判例によれば、会社の職場秩序に影響せず、かつ会社に対する労務の提供に格別の支障を生じぜしめない程度・態様の二重就職は、兼職(二重就職)禁止の違反とはいえないとされ、また、文献上も、許可制の規定を限定解釈することが正当であるとされています。
以上の観点からすると、一般的には、①兼業に至った事情(必要性及び経過(相続等偶然な事情のよるものか)等)、②兼業の労働時間(負担の程度、休養に支障がないか等)、③兼業の労働内容(負担の程度、違法性、社会的相当性、本来業務との競合の有無等)、④その他本来業務への影響等を総合考慮することになろうかと思います。

 上記のとおり、個別具体的な事情への配慮や先例との均衡等も重要となりますので、判断が容易ではないケースもあろうかと思います。兼業禁止規定、ひいては就業規則の制定・改定等について、ご不明な点などがある場合には、当事務所までご相談いただければと思います。