【コラム:労働法】有給休暇の取扱い

先日、とある企業で「ドラクエ(ドラゴンクエスト)をクリアするため」という理由で有給休暇申請がなされたことが話題となりました。

さて、このような有給休暇の申請を受けた企業は、ゲームをするための有給休暇取得など許さないとして、有給休暇申請を拒否できるでしょうか。

まず、原則として有給休暇をどのように利用するかは全くもって労働者の自由です。ドラクエをしようが、パチンコに行こうが、家でゴロゴロしていようが、彼氏・彼女とデートをしようが全く自由です。

判例(最判昭和48年3月2日民集27巻2号191頁)でも以下のように判示されているところです。

「年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である。」

したがって、原則として、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であると解釈されていますから、「ドラクエをクリアするため」という理由の有給休暇申請であっても拒否することはできません。

むしろ、上で述べた通り、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由であるとすれば、有給休暇の請求にあたって企業が有給休暇の利用目的や理由を記載させることに問題はないでしょうか?

この点については、「有給休暇の使途目的いかんによっては、有給休暇の趣旨目的に反する場合も考えられますし(例えば、犯罪にかかわるような目的が存在したり、二重就労といった場合)、また使用者の時季変更権の行使に当たって、理由や目的を考慮すべき場合も存在する」ことから、上のような取扱いが違法とまでは考えられていません(八代徹也『年次有給休暇をめぐる諸問題と実務上の留意点』9頁)。

ちなみに、使用者の時季変更権とは、労働者が指定した時季に有給を取得されてしまうと「事業の正常な運営を妨げる場合」にあたることを理由に、使用者が労働者の取得する有給休暇の時季を変更することができる権利のことをいいます(労働基準法39条第5項但書)。つまり、上記で述べた「使用者の時季変更権の行使に当たって、理由や目的を考慮すべき場合」とは、例えば、数人が同じ日を対象に有給休暇の申請をした場合に、全員がその日に有給休暇をとると「事業の正常な運営を妨げる場合」に該当してしまうような際に、各人の有休休暇取得の理由について勘案した上で、時季変更権の行使をするような場合が想定されています。

さて、「ドラクエをクリアするため」という理由の有給休暇申請であっても原則として、拒否することができないことはお分かり頂けたかと思いますが、有給休暇申請の目的がどのようなものであったとしても、有給休暇の申請が無効となることはないのでしょうか?

上でも少し述べたところではありますが、有給休暇の趣旨目的に反する場合には有給休暇が無効と判断される場合もあり、実際に有給休暇の取得が権利の濫用により、無効と判断された裁判例(東京地判平成9年10月29日労働判例731号28頁)も存在するところです。

上記裁判例では、タクシー乗務員全員を対象に、1か月に13回乗務する月は、そのうちの1乗務を「ナイト乗務」とし、夜間専用車両に乗務させる旨の勤務体制を採る会社において、タクシー乗務員らが前記ナイト乗務の指定日に年次休暇の時季指定をしたことが、権利の濫用に当たり無効であると判断しています。すなわち、通常の常務よりも負担の大きい「ナイト乗務」を避ける目的でのみ有給休暇を申請することは有給休暇の趣旨目的に反するという判断がなされました。

「この権利の濫用の考え方を推し進めると、労働者が年休を利用して他の会社や業務に従事するいわゆる二重就労を行う場合、そのような年休の時季指定は体を休めて労働力の維持培養を図るという年休権の本来の趣旨に反し、かつ、従業員の職場秩序遵守義務違反(忠実義務違反)として年休権の濫用である」八代徹也『年次有給休暇をめぐる諸問題と実務上の留意点』10頁)。との考え方も存在するところです。

最後にまとめますと、結局、上で述べた通り、どのように有給休暇を使用するかは原則として労働者の自由ですから、「ドラクエをクリアするため」有給休暇の申請を拒否することはできないことになります。

ただ、上記裁判例等でも述べたように、有給休暇取得の目的によってはそれを拒否することができる場合もあります。

この判断は上で述べたように解釈も分かれているところであり、専門的な判断が必要となりますから、有給休暇の取扱いについて、不明な点や不安がある場合には、当事務所までご相談ください。