【コラム】感染症が流行した場合の企業の労務対応

 1 令和2年2月1日付で,新型コロナウイルス感染症が指定感染症と定められ,日本国内において新型コロナウイルス感染症のニュースが連日報道されています。

    企業としては労働者の感染リスクに対応する必要がありますが,仮に労働者から下記A~Cの意見が出た場合,どのように対応すべきでしょうか。
  
2 労働者の意見
  A「新型コロナウイルスに感染したけれど,仕事が滞るのを防ぐため出勤してもよいですか。」
  B「新型コロナウイルスに感染したので,休業したい。休業手当は会社が負担してくれますか。」
  C「『熱が37.5度以上ある労働者は全員休業するようにしなさい。』との会社の命令に従って休業するので,休業手当は会社が負担してくれますか。」
  
3 Aについて
(1)雇用者は,労働者の生命及び健康を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負います。
      Aについては,指定感染症である新型コロナウイルスに感染しているので,企業としては,周囲の感染防止のために,出勤停止の業務命令を命じることが望ましいと考えられます。
      
 
(2)なお,労働者が新型コロナウイルスに感染した場合,感染症法に基づき都道府県知事が当該労働者に対して就業制限を行うことができます。厚生労働省も,使用者に対し,都道府県知事により就業制限がかけられた労働者については就業させないよう要請しています(『新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)』(令和2年3月1日時点版,URLは下記参照)の「4.その他 問4<就業禁止の措置>」)。
 
4 B・Cについて
(1)「使用者の責に帰すべき事由」による休業の場合,使用者は,休業期間中の休業手当(平均賃金の100分の60以上)を支払う必要があります(労働基準法第26条)。
      Bについては,実際に新型コロナウイルスに感染しており,感染症法に基づき都道府県知事から就業制限をかけられますので,「使用者の責に帰すべき事由」による休業には該当せず,企業は休業手当を負担しなくてよいと考えられます。
      Cについては,使用者である企業が独自の基準を設け,自主的な判断で労働者を休ませる措置を講じているので,「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当し,企業は休業手当を負担すべきと考えられます。
      
 (2)なお,厚生労働省も,新型コロナウイルスに感染している場合の休業については,「使用者の責に帰すべき事由」による休業に該当しないと述べています(上記Q&Aの「3.労働者を休ませる場合の措置について 問2<感染した方を休業させる場合>」)。
      また,一定の症状があることのみをもって一律に労働者に休んでもらう措置をとる場合のように,使用者の自主的な判断で休業させる場合,一般的には「使用者の責に帰すべき事由」による休業に当てはまると述べています(上記Q&Aの「3.労働者を休ませる場合の措置について 問4<発熱などがある方の自主休業>」)。
 
5 以上は一例でありますが,感染症に関する対応など,企業の労務問題については,専門的な判断が必要となります。不明な点や不安な点がある場合には,当事務所までご相談ください。
 
【参照】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html
(厚生労働省HP『新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)』令和2年3月1日時点版)