令和4年の刑法改正により、「執行猶予」に関するルールが大きく見直され、令和7年6月1日から施行されました。この改正では、これまで再犯によって実刑を避けられなかった方にも、一定の要件のもとで再度の執行猶予が認められる可能性が広がりました。今回は、旧法の問題点と新法での改正点を整理してご説明します。
1. 旧法における問題点
執行猶予期間中に再び罪を犯してしまった場合でも、一定の要件を満たせば「再度の執行猶予」が認められることがあります。しかし、改正前の刑法25条2項では、この再度の執行猶予が認められる範囲が非常に限定的でした。
- 言い渡される刑が1年以下の懲役又は禁錮であること
- 前の執行猶予に保護観察が付いていないこと
という2つの要件を満たさなければ、そもそも法律上、再度の執行猶予の対象にすらなりませんでした。
特に問題視されていたのが、2点目の「前刑に保護観察が付いていた場合は一律アウト」というルールです。保護観察は本来、社会内での更生を後押しするための制度ですが、皮肉なことに、保護観察が付いていたというだけで「二度目のチャンス」の道が閉ざされてしまう仕組みになっていました。これでは、保護観察を受けて真摯に更生に取り組んでいた方であっても、再犯があれば問答無用で実刑となってしまい、かえって社会内での更生を諦めさせてしまうという矛盾を抱えていたのです。
2. 新法における改正のポイント
こうした問題点を踏まえ、令和4年改正では以下のような見直しが行われました。
(1) 再度の執行猶予の対象範囲を拡大(刑法25条2項)
言い渡される刑の上限が、1年以下から2年以下に引き上げられました。これにより、これまで実刑が確実だった量刑帯の事案でも、再度の執行猶予を検討できる余地が生まれました。
(2) 保護観察付きの前刑があっても再度の執行猶予が可能に
改正前は「前刑に保護観察が付いていた場合」は再度の執行猶予の対象外とされていましたが、改正後はこの制限が撤廃されました。新法で再度の執行猶予が制限されるのは、「保護観察付きの再度の執行猶予」を受けている期間中に、さらに罪を犯した場合(いわば三度目の猶予にあたるケース)に限定されています。前刑(一度目)に保護観察が付いていたことだけを理由に道が閉ざされることはなくなりました。
3. 改正によって期待される効果
これらの改正は、単に「執行猶予がつきやすくなった」というだけでなく、次のような狙いを持っています。
- 社会内処遇の選択肢の拡大:実刑による施設内処遇だけでなく、保護観察等を通じた社会内での更生支援を、より多くのケースで選択できるようにすること
- 保護観察の実効性向上:再度の執行猶予には必ず保護観察が付されるため(刑法25条の2)、専門的な指導・監督のもとでの更生を後押しできること
再犯であることの重大性が軽くなったわけではありません。あくまで「情状に特に酌量すべきものがある」といった要件は維持されており、治療・支援体制の具体性や本人の反省・更生意欲など、個別の事情が丁寧に評価される必要がある点は従来と変わりません。しかし、法律上そもそも検討の土俵にすら乗らなかったケースが、土俵に乗るようになったという意味で、実務上の意義は大きいといえます。
4. 施行日と経過措置
この改正は、令和7年(2025年)6月1日に施行されました。
なお、施行日前に行われた行為であっても、執行猶予の可否を判断する際には新しいルール(改正後の刑法25条等)が適用されることが、関係法律の整理法(刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律)の447条において明文で定められています。行為の時期にかかわらず、判決時点で新しい制度が適用されるという点は、実務上見落とされやすいポイントですので、注意が必要です。
5. おわりに
今回の改正により、執行猶予期間中の再犯であっても、以前より柔軟な処遇が検討される可能性が広がりました。もっとも、実際に再度の執行猶予が認められるかどうかは、犯罪の内容や反省の程度、再犯防止に向けた具体的な取り組みなど、個別の事情を丁寧に主張・立証できるかどうかにかかっています。
執行猶予期間中の再犯でお困りの方、ご家族が同様の状況にある方は、早めに弁護士へご相談ください。当事務所では、改正後の制度を踏まえた適切な弁護活動をご提案いたします。