令和7年5月14日「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和七年法律第三十三号)が公布されました。
今回の改正は、従来の「雇用関係」を前提とした安全衛生管理から、契約形態を問わない「働く人全員」の安全確保へと大きく舵を切るものです。
本コラムでは、押さえておくべき改正ポイントを解説します。
1 「個人事業者(フリーランス)」等の保護と注文者の義務強化
これまで労働安全衛生法(以下「安衛法」といいます。)は、主に「労働者(雇用されている人)」を対象としていました。しかし、近年、建設、ITなど多様な分野で一人親方やフリーランス等の個人事業者が増加していることをふまえ、改正によりこれら「個人事業者」も法の保護対象・義務の主体として位置づけられることになりました。
(1)注文者(発注者)の配慮義務(安衛法第3条第3項)
建設工事の注文者や、仕事を他人に請け負わせる者に対し、施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の遂行を損なうおそれのある条件を付さないように配慮しなければならないという新たな配慮義務が規定されました。
これにより、無理な短納期や危険なコストカットを強いる契約条件は法的リスク(行政指導や損害賠償責任等)を負うことになるものといえます。
(2)「作業場所管理事業者」の連絡調整義務(安衛法第30条の4)
自ら業務を行い、かつそ作業所を管理する事業者(作業場所管理事業者)は、自社の労働者だけでなく、同じ場所で作業する「請負人(個人事業者を含む)」に対しても、作業間の連絡及び調整を行うことに関する措置を講じなければならないとの義務を負うこととなります。これにより、現場における混在作業による事故の未然防止が期待されます。
(3)個人事業者自身の義務(安衛法第20条~第25条等)
一方で、個人事業者自身も「事業者」としての責任が問われる場面が増えます。
・措置義務の準用:安衛法第20条(危険防止措置)等の規定が、個人事業者にも適用されるようになります。一定の危険を伴う作業について、必要な措置を講じることが求められます。
・機械の安全義務:安全装置(規格)を具備していない機械を使用してはならないと明記されました(安衛法第42条)。
2 ストレスチェック制度の対象拡大(附則第4条の削除)
職場におけるメンタルヘルス対策の要であるストレスチェック制度について、50人未満のすべての事業場においても義務化されることになりました。
現行法では、従業員50人未満の事業場におけるストレスチェック実施は「当分の間、努力義務とする」という規定(附則第4条)が存在していましたが、今回の改正でこの規定が削除されました。
これにより、従業員数に関わらず全ての事業場においてストレスチェックの実施が義務となります。ただし、小規模事業者の準備期間を考慮し、施行は公布から3年以内の政令で定める日とされています。「やり方がわからない」「産業医がいない」という小規模事業者向けに、国は「地域産業保健センター(地さんぽ)」の体制拡充などの支援策を用意する予定とされております。
3 高年齢労働者の労働災害防止(安衛法第62条の2)
働く人の高齢化が進む中、労働災害による死傷者に占める60歳以上の割合は増加傾向にあります。これを受け、高年齢労働者の労働災害防止に関する規定が新設されました。
(1)事業者の努力義務(安衛法第62条の2第1項)
高年齢労働者の特性(身体機能の低下など)に配慮し、照明を明るくする、段差をなくす、警報音を聞きやすくするといった作業環境の改善や作業管理を行うことが、事業者の努力義務となります 。
(2)指針の公表と指導(安衛法第62条の2第2項・3項)
具体的な対策については、厚生労働大臣が定める指針(エイジフレンドリーガイドライン等)に従うこととなります。また、労働局等は必要な指導や援助を行うことができるようになります。
4 化学物質管理の厳格化と罰則(安衛法第57条の2等)
化学物質の自律的管理が進む中、情報伝達の不備に対するペナルティが強化されます。
(1)SDS通知義務違反への罰則(安衛法第57条の2、第119条)
化学物質を譲渡・提供する際、相手方への文書(SDS)交付などを怠った場合、新たに罰則が適用されます。
(2)個人ばく露測定の位置付け(作業環境測定法第2条等)
労働者の身体に装着して測定する「個人ばく露測定」が法律上明確に位置付けられ、一定の場合には作業環境測定士による実施が義務付けられます。
5 機械等の検査の民間活用と不正防止(安衛法第38条等)
クレーン等の製造時検査の一部を民間の登録機関に開放する一方、不正防止のために検査基準の遵守義務や欠格要件が強化されます。
6 まとめ
今回の改正法は、その多くが令和8年(2026年)4月1日からの施行となります。
特に、第3条第3項(注文者の配慮義務)や第30条の4(作業場所管理事業者の措置)は、事故発生時の民事上の安全配慮義務違反の判断基準にも直結する重要な規定です。
当事務所では、就業規則の改定、業務委託契約の見直し、ハラスメント対策の社内研修など、企業の予防法務をサポートしております。改正対応に不安のある事業者様は、お早めにご相談ご相談いただくことをお勧めいたします。
出典:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/an-eihou/index_00001.html