【コラム】民泊と旅館業法

円安の影響などもあり、近年、来日する外国人旅行者数は増加傾向にあります。
 これに伴い、首都圏などではホテルの稼働率が高水準となる一方、ビジネスマンが出張をする際に、ホテルの予約がとりにくいという状況が生じていると各種メディアで報じられており、数年後には東京オリンピックも控えて宿泊先の不足などが話題にされています。

 そのような中で、旅行者などに宿泊先を提供する新たな分野として注目を集めつつあるのが、自宅の一室や空家などを宿泊施設として旅行者などに提供する、いわゆる「民泊」です。
 近年、日本においても「民泊」を仲介するインターネット上のサービスの利用が急増しているとのことでありますが、この「民泊サービス」は既存の法令との関係で様々な指摘がなされており、中でも旅館業法との関係などが問題視されています。
 旅館業法といっても、論点は様々ありますが、今回は、旅館業法の基礎的な内容ともいえる許可制の規定と民泊の関係について述べていきたいと思います。

 旅館業法は、第2条において「旅館業」を、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業及び下宿営業に分類しているところ、全ての形態において「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」を要件として規定し、厚生労働省は、「旅館業」とは「宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業」と定義されると明示しております。

第二条  この法律で「旅館業」とは、ホテル営業、旅館営業、簡易宿所営業及び下宿営業をいう。
2  この法律で「ホテル営業」とは、洋式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。
3  この法律で「旅館営業」とは、和式の構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のものをいう。
4  この法律で「簡易宿所営業」とは、宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、下宿営業以外のものをいう。
5  この法律で「下宿営業」とは、施設を設け、一月以上の期間を単位とする宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業をいう。
 
 旅館業法は、第3条において「旅館業を経営しようとする者は、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長又は区長。第四項を除き、以下同じ。)の許可を受けなければならない」として、旅館業について許可制を採用し、10条において違反者の罰則規定も設けています。

 したがって、「旅館業」に該当する場合、すなわち、①宿泊料を受けること,②人を宿泊させること、③営業であること、の要件を満たす場合、旅館業法上の許可を受ける必要があることとなるため、これらの要件への該当の有無が重要となります。
 この点、①「宿泊料」とは、その名目だけではなく、実質的に「宿泊」の対価と解される費用を意味します。
 そして、②「宿泊」については、同法2条6項において「寝具を使用して前各項の施設を利用すること」と定められています。
 最後の③「営業」の意義について、厚生労働省は、施設の提供が「社会性をもって反復継続されているもの」をいうとの見解を示しています。そして、この「社会性をもって」とは「社会通念上、個人生活上の行為として行われる範囲を超える行為として行われるもの」と解すると述べております。したがって、単に知人・友人を宿泊させる場合等は同要件に当たらず、除外されることとなります。
 加えて、厚生労働省は、旅館業とアパート等の貸室業とを峻別するメルクマールとして、旅館業は「(1)施設の管理・経営形態を総体的にみて、宿泊者のいる部屋を含め施設の衛生上の維持管理責任が営業者にあると社会通念上認められること、(2)施設を利用する宿泊者がその宿泊する部屋に生活の本拠を有さないこと」と説明しております。

 以上に照らせば、現在行われている民泊に見られる、インターネット等で広く宿泊者を募集し、宿泊料を受け取って宿泊させる形態の場合、上記3要件に該当する上、宿泊者の生活の本拠でないことから、例外的に許容されたいくつかの形態に該当しない場合、旅館業に該当する可能性が高いと思料されます。
 これに対し、平成28年4月より規制緩和が行われたという報道などもありますが、その具体的内容は、「簡易宿所営業」の許可要件(客室床面積の基準や玄関帳場等(いわゆるフロント)の設置)が緩和された、その他の内容に止まり、規制が撤廃されたなどというものではないため、注意が必要となります。
 上記は旅館業の許可規定に関する点のみとなりますが、「民泊」を運営するに当たっては、旅館業法の他の規定、さらには、その他の関係法令等にも適合していくことが肝要となりますのでご留意ください。

(弁護士 篠原秀太)