【コラム】「賭博」の線引きと社内コンプライアンス

1 はじめに
 昨今、スポーツ選手等による賭博行為が世間を賑わせています。
 刑法185条は、「賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する」と定めています。そのため、賭博を行った当事者は刑事上の責任を負うこととなります。なお、賭博罪の保護法益は、国民一般の健全な勤労観念とされています。
 もし賭博行為が企業内の社員間で常態的に行われ、これが公になってしまった場合はどうでしょうか。もちろん、このことで企業が刑事上の責任を負うことはありません。しかし、当該企業の大幅なイメージダウンに繋がることは想像に難くないでしょう。
 
2 「賭博」とは
 そもそも、「賭博」とは、偶然の事情に関して財物を賭け、勝敗を争うことと定義され、ここでいう「偶然」とは、当事者において確実に予見できず、又は自由に支配し得ない状態をいいます。そのため、例えばジャンケンは「偶然の事情」に該当することとなります。
 また、当事者の能力差が結果に影響を及ぼす場合であっても、偶然の事情は認められるべきとされており、麻雀の結果、ゴルフの結果も「偶然の事情」に該当することなります。

3 「一時の娯楽に供する物」
 もっとも、形式的に賭博行為に該当する場合であっても、単に一時的な娯楽のために物を賭けたに過ぎないような場合には、軽微性又は社会的相当性のために、処罰されないこととされています。
 「一時の娯楽に供する物」については、価格の僅少性に重点を置く見解と、消費の即時性に重点を置く見解に別れていますが、裁判実務は、この両者の観点を総合的に判断しているといわれています。一般には、その場で直ちに費消する茶菓や食事等は、「一時の娯楽に供する物」に該当します。他方で、金銭はその性質上、「一時の娯楽に供する物」には該当しないとするのが裁判実務の主流となっております。
 ただし、一時の娯楽の用に消費される程度の少額の金銭であれば、違法性の軽微性から賭博罪の成立は否定されるべきとされています。

4 まとめ
 以上より、社員が月毎の個人売上を競い負けた方が昼食を1回奢るなどといった場合は、形式上「賭博」に該当しますが、昼食には消費の即時性が認められ、賭博罪は成立しないこととなります。しかし、勝利品が現金となった場合、それが数十円などといった極例外的な場合で無い限り、賭博罪が成立し得ることとなります。
 社員が、遊び感覚で100円、200円の金銭を賭けてしまうことは少なくはないと考えられますが、厳密には、このような遊びも賭博罪に該当し得てしまいます。
 万が一のとき、企業のイメージダウンを防ぐ観点からも、企業内研修による社員の意識改革が必要であると考えます。