【コラム:労働法】国外勤務における労働法令の適用について

昨年10月に環太平洋経済連携協定(TPP)交渉が大筋合意に達し、日本でも、国会承認の段階に入りました。TPP始動で実際にどのような経済効果が生まれるのか、未知数の部分が多分にあるものの、これを機会にと企業の海外展開を推進する動きもみられるところです。
中小企業の海外展開について統計を見てみると、2011年には、従業者50人以上かつ資本金又は出資金3000万円以上の中小企業のうち、製造業では18.9%、中小企業全体でも13.4%の企業が国外に子会社を保有しているとの経済産業省の調査結果が出ています。また、業種別では、製造業だけでなく、サービス業や情報通信業の増加も著しいようです(中小企業白書2014・299~301頁)。
今後もますます、中小企業の国外展開は増えていくと思われますが、その中で、国内で雇用した労働者に長期の国外勤務をしてもらうことになった場合、労働条件決定の要となる労働基準法をはじめとする労働関係法令は、どのように適用されるのでしょうか。確認しておきたいと思います。

まず、労働基準法等は労働関係に適用される法律であり、労働関係において労働契約は欠かせないものですが、「契約」一般については、どの国の法律を適用することを選択するか(準拠法の選択)は、基本的に当事者の意思が尊重されます。これを「当事者自治の原則」といい、準拠法の選択に関し諸外国でも広く使用されているルールですが、日本法では法の適用に関する通則法(以下では単に「通則法」といいます)7条に規定されています。
他方で、特に労働基準法は、労働条件の最低基準を定める法律であり、会社と労働者とが労働契約において合意しても、同法が定める基準を下回ることはできないということにも、留意する必要があります。このような労働基準法の性質により、上記の当事者自治の原則が修正されるということです。この点はまた後で詳しく書きます。

さて、長期の国外勤務には、長期の国外出張と、国外子会社での勤務、すなわち、国外子会社と労働契約を締結して労働者として勤務する形態とが考えられるかと思います。

長期国外出張では、労働者が国内の事業に所属しつつ一時的に国外で就労するにすぎない場合には、日本の労働基準法が適用され、その適用を排除することはできません(労働基準法の域外適用)。
この国内の「事業」に所属しているかどうかは、日本の使用者の指揮命令下で就労しているかどうかによります。日本の使用者の指揮命令下で就労している場合には、国内の事業の延長として労働基準法の効力が及びますので、その労働関係には日本の労働基準法が適用されます。
逆に、国外の使用者の指揮命令下で就労している場合には、労働基準法の効力は及ばず、同法は適用されません。もっとも、人事異動や解雇権について国内の使用者に権限が留保されている場合には、その限りで日本の労働基準法が適用される可能性があるため、注意が必要です。

他方で、国外子会社での勤務で、国外の使用者の指揮命令下で就労する場合には、次のようなルールに従って、日本の労働基準法の適用の有無が決まっていきます。
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①国外子会社と当該労働者との間の労働契約で、日本の労働基準法を準拠法とする合意があれば、日本の労働基準法が適用されます(当事者自治の原則)。
②①の労働契約において準拠法についての合意がない場合には、当該労働者の労働契約に最も密接に関連する地が日本であれば、日本の労働基準法が適用されます。
③①の労働契約において国外の法律を準拠法とする旨の合意があれば、原則として当該法律が適用されます。ただし、また、当該労働者の労働契約に最も密接に関連する地が日本である場合には、その労働者が日本の労働基準法を適用すべきであると主張すれば、日本の労働基準法が適用されます。
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上記のルールについて、順に詳しくみていきます。
まず①は、上でも述べた「当事者自治の原則」に基づくものです。なお、合意は明示のものでなくとも、黙示のものでも足りますが、後々の紛争を避けるためには明示に合意する方が良いといえます。
②はそうした合意がない場合のルールです。これは日本の通則法では8条1項に定められています。そして、日本の労働基準法が労働契約に最も密接に関連する地の法律かどうかの判断については、通則法12条3項に推定規定があります。まず通則法12条3項及び同条2項は、「労務を提供すべき地の法律」を最も密接に関する地の法律と推定しています。また、航空乗務員等、労務を提供すべき地を特定できない場合は、「当該労働者を雇い入れた事業所の所在地」の法律が推定されます(同条2項)。
③は、合意があるにも関わらず、労働契約に最も密接に関連する地の法律が適用される場合です。これは、上で述べた労働基準法の性質に基づくものです。労働契約においては、類型的に、労働者と使用者との間に交渉力・情報力等の格差があることから、当事者自治を無制限に認めると、使用者が自己に有利な法を準拠法として選択する可能性があり、当事者間の利益の適切な均衡を図るためにも、労働者の保護が必要と考えられているのです。日本の通則法においても、12条1項で労働契約の準拠法に関する特則が定められています。

労働者に長期の国外勤務をさせる際の労働基準法の適用関係は、以上のようになります。労働契約上は国外の法律が準拠法となっている場合でも、人事異動や解雇権について国内の使用者に権限が留保されている場合には、その限りで日本の労働基準法が適用される可能性があること、また、労働者の主張に基づき日本の労働基準法が適用される可能性があることが、特に重要な点といえるかと思います。

なお、日本国外で雇用された労働者が長期間日本で働く場合には、上記とは逆に、日本国以外の国の労働法制が適用される可能性があるため、注意が必要になります。また、休憩時間や退社時刻、残業時間、休暇の取り方について考え方が異なる可能性があるため、互いの理解を確認しつつ、それぞれの法制度に合わせた適切な対応をとることも重要になってきます。
このあたりについては、またの機会にみていきたいと思います。