【コラム:商法】契約書と商法526条

契約書の確認及び作成にあたり、検討するべき項目は多いと思われますが、今回は、商法526条との関係について述べます。

商人間の売買契約においては、特段の合意がなければ商法526条が適用され、損害賠償請求等の期間制限が生じます。
すなわち、会社間の売買では、契約書に、特段の定めを置かなければ、損害賠償請求等に期間制限が生じることになります。

商法526条では、以下のとおり、規定されています。

(買主による目的物の検査及び通知)
第五二六条 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

第1項は、買主の検査義務を規定しています。
買主の検査義務については、裁判例において、「商法526条1項に規定する検査義務は、通常人に比べて専門的な知見を有する商人間の売買について、民法の一般原則を修正し、取引に伴う瑕疵担保責任の追及等の不安定な状態の継続を回避し、商取引の迅速性を図るためのものであり、検査義務の具体的内容としては、当該目的物を取引する商人として一般的に要求される客観的な注意義務をもって、当該取引の態様、過程に照らして、その瑕疵等を発見するために通常合理的と認められる方法及び程度の検査を行うことが求められるものと解される。」等と判示されています(東京地裁平成14年4月9日判決(新日本法規提供))。

第2項は、直ちに瑕疵が発見できる場合かどうかで、前段と後段に分かれています。
前段においては、目的物に瑕疵があること又はその終了に不足があることを発見したときに直ちにその旨の通知する必要があること、後段においては、直ちに発見することのできない瑕疵のある場合において、6箇月以内にその瑕疵を発見したときも同様であることを定めています。
「直ちに」の意味については、「商法526条1項の趣旨に鑑みれば、そこに規定する「直ちに」の意味は、主として、当該取引において買主が取引常識からみて当該目的物を検査するのにどれだけの時間を要するかという見地から判断されることになるが、単に時間だけではなく、通知が遅れたことによって売主が損害を被る危険性、売主に早期に瑕疵の調査の機会を与える必要性、目的物の種類及び数量、さらには、買主がどのような過程を辿って当該目的物を検査し通知をしたかという事情をも考慮に入れた上で判断すべきである。」とも判示されています(東京地裁平成15年4月24日判決(新日本法規提供))。

第3項は、売主が瑕疵又は数量の不足につき悪意の場合には第2項を適用しないと規定しています。

第2項のとおり、瑕疵を直ちに発見できるケースが否かで期間が異なりますが、買主としては、特段の合意をしなければ、商法526条の適用により、損害賠償請求等ができなくなる可能性があります。
そのため、買主としては、売買契約の締結にあたり、商法526条の適用を排除するかどうかを検討する必要があります。
逆に、売主としは、売買契約書において、商法526条の適用を排除すると合意しますと、商法よりも加重された責任を負担することになります。

裁判例でも、冷凍食品に毒物が混入していた事例(大阪地裁平成22年7月7日判決(判時2100号97頁)、東京地裁平成22年12月22日判決(判時2118号50頁))、肥料が生育障害を引き起こした事例(東京地裁平成26年7月15日判決(判時2238号58頁))等において、商法526条の適用が認められ、売主の責任が一定の範囲で否定されています。

このように、商法526条が適用されるかどうかは、損害賠償等に大きく影響しますので、売買契約書の作成又は確認にあたって、検討すべき項目といえます。