【コラム】入管法改正

近年、街中で、社会の一員として働く外国人を見かけることは珍しくなくなりました。

 厚生労働省によれば、届出のなされた国内の外国人労働者数は2018年10月末時点で約146万人とされ、前年の約128万人と比べても大きく増加しています。

 もっとも、外国人労働者については、その在留の名目と実態にズレがあることがしばしば指摘されてきました。例えば、コンビニで働く外国人の多くは、留学生として日本に滞在していますが、実態は出稼ぎであるといわれています。

 2018年12月、入管法(出入国管理及び難民認定法)の改正案が成立し、2019年4月1日から施行されることとなりました。

 同法の改正をめぐっては、法案採決時の衆参両院における「強行採決」も記憶に新しいところです。

 同改正は、日本がこれまで正式には認めてこなかった単純労働者の受入れに門戸を開き、我が国における外国人労働者の扱いを大きく変えるものとの評価もなされているようですが、実際はどのような改正がなされたのでしょうか(なお、本稿において、「単純労働」は、特別な技能や知識、熟練を必要としない仕事、という程度の意味で用いています)。

 今回の主な改正内容は、在留資格に「特定技能1号」「特定技能2号」を追加したことにあります。以下では、「一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れていく仕組みを構築する」(「特定技能外国人受入れに関する運用要領」ほか)という建前にも関わらず、単純労働者受入れとの見方も強い「特定技能1号」についてみていきます。

 前提として、在留資格とは、外国人が日本に入国・在留して従事することができる活動、あるいは入国・在留できる身分又は地位について類型化し、法律により定めたものです。各類型ごとに日本にて行うことのできる活動内容が制限されています(入管法別表1及び2参照)。

 これまで日本においては、単純労働力を供給する労働者向けの在留資格は存在せず、就労の観点からは、比較的高度な専門的・技術的な能力を身につけた外国人にのみ在留資格を与える形となっていました。そして、外国人による単純労働は、留学生や技能実習生といった、必ずしも単純労働を予定していない在留資格の者により担われてきました。

 では、「特定技能1号」は、単純労働者に在留資格を認めるものなのでしょうか。

 「特定技能1号」の内容は、省令により、下記のとおり14業種(いずれも労働力の不足が著しいとされるもの)を特定技能として指定し、これらに従事する者に一定の条件のもと在留資格(最長5年間、家族帯同不可)を認めるものとなっています。
 
一 介護分野 二 ビルクリーニング分野 三 素形材産業分野 四 産業機械製造業分野 五 電気・電子情報関連産業分野 六 建設分野 七 造船・舶用工業分野 八 自動車整備分野 九 航空分野 十 宿泊分野 十一 農業分野 十二 漁業分野 十三 飲食料品製造業分野 十四 外食業分野

 「特定技能1号」で在留する外国人に対しては「相当程度の知識又は経験を必要とする技能」が求められます。これは、「相当期間の実務経験等を要する技能をいい、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準」とされ、その技能水準は試験等により確認するとされています。さらに、一定の日本語能力を有することも条件となっています(「特定技能外国人受入れに関する運用要領」)。
 したがって、「特定技能1号」においても、あくまで一定の技能等を有することが在留の前提となっています。

 また、今回の入管法改正が、単に単純労働力の不足する業界にこれを供給することのみを目的としているのであれば、選ばれた分野は、特段の訓練等を要さず行える業務の占める割合が高いなど、単純労働力の需要が高い分野ということになります。
 たしかに、上記14分野が人手不足の業界であるというのそのとおりなのでしょうが、各分野には、それなりの熟練を要する業務の割合が高いものも相当数含まれ、業種を理由に単純労働力補充目的と判断するのは不適当であるように思います。
 とはいえ、上記14分野には単純労働力を必要とするものが相当程度あることも否定できませんから、単純労働力の確保も改正目的の一つではあるのでしょう。

 以上からすれば、在留資格「特定技能1号」の追加は、必ずしも単純労働力の供給増のみを目的とするものとはいえませんが、改正以前に比べ、専門的・技術的能力が高いとはいえない外国人を採用する環境が整えられたということができます。

 外国人労働力の導入は、単に不足する労働力の穴埋めというにとどまらず、外国人労働者の高い就労意欲や、異なる文化的背景を有することによる独特なアイディアが、職場環境の活性化に役立つ可能性もあります。

 また、海外進出を検討している企業においては、進出先の出身者を雇用し、現地での責任者候補として育成すること等により、進出の足掛かりとすることも考えられます。

 外国人労働力の受け入れは社会の在り方を大きく変える可能性があり、改正法の内容や成立の経緯等を含め賛否両論あるところですが、経営者の皆様としては、改正を好機として積極的に制度を活用していく方法を考えていくことが必要かと思われます。

 外国人を雇う際には、就労資格の有無の確認、各種手続き、紛争を未然に防ぐための方策等、日本人を雇用する場合とは異なる注意が必要となりますので、ご検討の際は弊所へお気軽にご相談ください。