【コラム】賃貸借契約に関するルールの改正

20175月に成立した「民法の一部を改正する法律」が202041日より施行されます。

今回は、その中で、日常生活とも関わりが深い、賃貸借契約に関するルールの改正のうち、賃貸人及び賃借人の権利義務に関する改正をみていきたいと思います。

なお、原則として、施行日より前に締結された契約には改正前民法が適用され、施行日後に適用された契約については改正民法が適用されます。

 

1 不動産の賃借人による妨害の停止の請求等

第六百五条の四   不動産の賃借人は、第六百五条の二第一項に規定する対抗要件を備えた場合において、次の各号に掲げるときは、それぞれ当該各号に定める請求をすることができる。

  その不動産の占有を第三者が妨害しているときその第三者に対する妨害の停止の請求

二 その不動産を第三者が占有しているときその第三者に対する返還の請求

 

(改正前)

新設

(1)内容

従前の判例法理(最判昭和28年12月18日)が明文化されました。

(2)今後の問題

上記のような不動産の賃借人が、所有権や占有権について認められている、不動産が妨害されるおそれがある場合にその予防を請求する、いわゆる占有保全の請求ができるか否かについては規定がされておらず、この点については今後の解釈に委ねられます。

また、本条に基づく請求は賃借人が対抗要件を備えることを要件としていますが、これがない場合であっても、何等権限なく賃借物を占有している不法占拠者等に対して妨害の停止や返還を求めることができないかという点については今後の解釈に委ねられます。

 

2 賃貸人の修繕義務

第六百六条  賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。 ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。

 

(改正前)

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。

(1)内容

改正前民法において、賃貸人は賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負うものとされておりましたが、賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要となった場合にもなお賃貸人は修繕義務を負うのかという点について解釈が争われておりました。

この問題について、改正民法は、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となった場合には賃貸人は修繕義務を負わないことを規定しました。

(2)今後の問題

本条により、今後賃借物の修繕を賃貸人に求める場合には、修繕の必要性及びその原因が賃借人にあるか、あるいはそれ以外にあるかという点に争点が集約されるものと思われます。

 

3 賃借人による修繕

第六百七条の二  賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。

  賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。

  急迫の事情があるとき。

 

(改正前)

新設

(1)内容

賃借人にとって賃借物は他人のものであり、修繕の必要がある場合であっても勝手に修繕を行うことはできないことが原則ですが、改正前民法においても、一定の場合には賃借人が自ら修繕を行う権限が認められるものと解釈されておりました。

改正民法は、この点について、賃借人が賃借物を修繕できるのは、

  賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき

  急迫の事情があるとき

であることを明文化しました。

(2)今後の問題

本条に基づいて賃借人に修繕権限が認められる場合であっても、その修繕費用を賃貸人に請求できるか否かは別問題であり、この点については別途民法608条1項の要件を満たすか否かによって判断されます。

 

4 賃借物の一部滅失等の場合における賃料の減額等

第六百十一条  賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。

2  賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

 

(改正前)

賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。

2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。

(1)内容

改正民法においては一部「滅失」の場合に「賃料の減額を請求することができることができる」ことが定められていましたが、学説上、「滅失」以外の場合にも減額が認められるべき、危険負担との関係から請求がなくとも当然に減額がなされるべきとの指摘がされておりました。

このような指摘を踏まえ、改正民法は、減額の場合を「滅失その他の事由」と範囲を拡大し、また、請求がなくとも当然に減額がなされることとしました(1項)。

また、賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失し、これにより賃貸借契約の目的を達成することができなくなった場合には賃貸借契約が解除できるとする改正前民法の規定についても、「滅失その他の事由」の場合に範囲が拡大され、さらに、賃借人の無過失要件が削除されました(2項)。

(2)今後の問題

滅失以外の「その他事由」の判断、「その使用できなくなった部分の割合」の判断について争いが生じることが考えられます。

 

5 賃借物の全部滅失等による賃貸借の終了

第六百十六条の二   賃借物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合には、賃貸借は、これによって終了する。

 

(改正前)

新設

(1)内容

従前の判例法理(最判昭和32年12月3日等)が明文化されました。

(2)今後の問題

賃借物の一部の滅失等の場合(611条)と同様、滅失以外の「その他事由」の判断について争いが生じることが考えられます。

 

6 賃借人の原状回復義務

第六百二十一  条賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年変化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

 

(改正前)

新設

(1)内容

賃借人は、賃貸借契約の終了時、原則として、賃借物を賃貸借契約開始時の状態に戻して返還する義務(原状回復義務といいます。)を負うところ、その範囲について、判例法理(最判平成17年12月16日)や一般的な運用を踏まえ、

  通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗

  賃借物の経年変化

  賃借人の責めに帰することができない事由による損傷

については、原状回復義務を負わないことが明文化されました。

(2)今後の問題

上記①~③の範囲、判断について争いが生じることが考えられます。

 

概要は以上になります。

 

上記改正民法について、その文言の解釈、適用等について専門的な判断が必要となる他、改正後、裁判例が蓄積されていくものと思われますので、不明な点や不安な点がある場合には、当事務所までご相談ください。