【コラム】情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)について

令和7年4月1日、「情プラ法」が施行されました。これは略称であり、通称は、「情報流通プラットフォーム対処法」、正式名称は、「特定電気通信による情報の流通によって発生する権利侵害等への対処に関する法律」といいます。

 
 情プラ法は、インターネット上で違法・有害な情報が氾濫し、それらが大手のプラットフォーム事業者の運営にかかるSNSや掲示板等を介して行われ、誹謗中傷、名誉毀損等の権利侵害が深刻な社会問題となっている状況をふまえ、プラットフォーム事業者等がインターネット上の権利侵害等への対処を適切に行うことができるようにするため、従来の「プロ責法」ないし「プロバイダ責任制限法」(正式名称・「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)を大幅に改正して制定されました。
 
 「被害者救済」と発信者の「表現の自由」という重要な権利・利益のバランスに配慮しつつ、プラットフォーム事業者等がインターネット上の権利侵害等への対処を適切に行うことができるようにするための法制度を整備しています。
 
 主要な制度としては、以下のものが挙げられます。
 
①プラットフォーム事業者等の免責要件の明確化
 従来のプロバイダ責任制限法では、プロバイダがユーザーによる違法な投稿について損害賠償責任を問われないための「免責要件」が定められていました。
 しかし、その文言は抽象的で、事業者側にとっては削除判断のリスクが高く、慎重な対応を要するものでした。
 情プラ法では、この免責要件がより明確化されました。
 プラットフォーム事業者等は、被害者に対する責任に関し、①権利が侵害されているのを知っていたとき又は②これを知りえたと認めるに足る相当の理由があるとき以外は免責とされます(法第3条1項)。他方、発信者に対する責任に関し、①権利が不当に侵害されていると信じるに足る相当の理由があるとき又は②発信者に削除に同意するか照会したが7日以内に反論がないときは免責とされます(同条2項)。
 
②発信者情報の開示手続の合理化・迅速化
 次に、発信者情報の開示手続の整備です。インターネット上の誹謗中傷や名誉毀損の被害者が、匿名の投稿者を特定するには、従来は2回の法的手続(投稿先サービス事業者⇒接続プロバイダ)が必要でした。この煩雑さが救済の障害となっていました。
 新法では「発信者情報開示命令制度」が導入され、権利侵害が明らかであり、かつ開示を受けるべき正当な理由があるとき等の要件を満たす場合には、一つの手続(非訟事件手続)によって権利侵害情報の発信者を特定することが可能となりました。これにより、長期間を要していた開示手続が、短縮されることが期待されています。
 
③大規模プラットフォーム事業者への新たな義務
 情プラ法では、月間利用者数など一定の要件を満たす「大規模特定電気通信役務提供者」に対し、削除要請対応に関する新たな義務が課されました。対象となる事業者には、以下のような対応が求められます。
 ・削除申出の受付窓口の設置(電子的手段を含む)
 ・削除要請への遅滞ない調査および通知(原則として14日以内)
 ・削除判断の基準(ガイドライン)の策定・公表
 ・削除結果の発信者への通知
 ・年次の対応実績報告
 
 注目すべき点は、削除対応にあたって専門的知見を有する「侵害情報調査専門員」を社内に配置し、総務省への届け出を行うことが義務化された点です。大規模なプラットフォームを提供している企業では、従来の投稿内容の監視・対応(コンテンツモデレーション)体制に加え、法的な視点をもった調査・判断体制が求められるようになります。該当しない企業であっても、違法投稿への対応が不適切であれば、発信者との紛争や社会的信用の低下を招く可能性があります。ガイドラインの明文化、削除要請への誠実対応、対応履歴の記録等の対応の検討や準備が重要になるといえます。
 
 以上、ご紹介しました情プラ法は、被害者救済の強化を目的としつつ、プラットフォーム事業者に対して一定の責任と義務を明確化した法制度となります。事業者、情報発信者、被害者のいずれの立場に立つ場合も想定し、社内体制やリスク管理を見直す契機になるといえます。