令和6年11月1日施行の改正道路交通法において、自転車の運転に関し厳罰化が図られることを以前のコラム(2024年10月28日)でご紹介しましたが、令和8年4月1日から、信号無視、一時不停止、ながらスマホおよび右側通行等の自転車の悪質な危険運転に対して、交通反則通告制度(青切符)が適用されることになりました。
交通反則通告制度とは、軽微な交通違反に対して、反則金を支払うことで刑事罰を免れる制度ですが、これまで自動車やバイクに適用されていたものが令和8年4月1日からは自転車にも導入され、「青切符」が切られることになりました。対象年齢は16歳以上とされています。
これは、近時、交通事故全体の件数が減少している中で、依然として自転車による事故が高い水準で推移していることによるとされています。
誰でも手軽に乗れる自転車ですが、道路交通法によって「軽車両」とされ、同法の適用を受け、交通ルールに従った運転を行うことが義務づけられています。
しかし、実態は交通ルールに従わない走行が多く見受けられ、それに伴う事故の発生を招来してきました。
便利な自転車ですが、一度加害者となる事故を惹起し、人を死傷させてしまえば、刑事責任として、過失致死傷罪(刑法209条1項・210条)に問われ、例えば、スマートフォンを操作しながらの運転など重大な過失が伴った場合には、重過失致死傷罪(刑法211条)に問われる可能性があります。
また、民事責任としても、被害者に対する損害賠償責任が生じ、公表されている高額な事案では、11才の男児の自転車による事故により、母親に約9,521万円の損害賠償責任を認めた事案(神戸地方裁判所平成25年7月4日判決・自保ジャーナル・第1902号)や男子高校生の自転車による事故で約9,266万円の損害賠償責任を認めた事案(東京地方裁判所平成20年6月5日判決・自動車保険ジャーナル・第1748号)などがあります。
自らが被害者になり、死亡や重度後遺障害等の被害を受けた場合には、その補償が受けられるのかについても、強制保険の制度のない自転車事故においては不安が伴うところです。
そこで、加害者になってしまった場合の損害賠償責任の履行のために個人賠償責任保険への加入、また、被害者になった場合の補償として、交通傷害保険等への加入も検討する必要があり、多くの自治体で自転車保険への加入が義務化されています。
誰しもが便利に使える自転車であるからこそ、しっかりルールを守って事故のない社会にしていく意識を私たち全員が持たなければならないところですが、実際には、高速で歩道を走行してしまったり、一時停止をすることなく交差点を通行したり、信号を無視するなどルールに反した走行をする自転車を目にします。
こうした背景から、警察庁は、2025年4月24日に「道路交通法施行令の一部を改正する政令案」を発表し、政令の改正を行い、2026年4月1日から自転車の道路交通法違反に対しても「青切符」を導入し、反則金を課する案をまとめ、重大な事故につながるおそれのある違反について重点的に取締りを行う方針を示しました。
それによれば、自転車に固有の違反行為に対する反則金の額の主なものは、以下のとおりとされています。
① | 携帯電話を使用しながら自転車を運転する、いわゆる「ながら運転」 | 1万2000円 |
② | 信号無視 | 6000円 |
③ | 逆走や歩道通行などの通行区分違反 | 6000円 |
④ | 一時不停止 | 5000円 |
⑤ | 傘を差したり、イヤホンを付けて音楽を聴いたりしながら運転するなど、都道府県の公安委員会で定められた順守事項に違反する行為 | 5000円 |
⑥ | 無灯火 | 5000円 |
⑦ | 2人乗り | 3000円 |
現状では、施行日から厳しい取り締まりが徹底されるのかは分かりませんが、社会全体でその趣旨と目的を理解し、国民1人1人が交通ルールに従った自転車の利用を徹底する意識を持って事故のない利用を強く心がけることが大切であると思います。
作成者 代表弁護士 高橋達朗